こんにちは。Bass Collectionベースフィッタの岡崎です。
エレクトリックベースをはじめとするすべての弦楽器には、楽譜に記せば全く同じ音でありながらも、弦やポジションの違いによって全く異なる響きを持つ音、いうなれば”異色同音”が存在します。たとえば同じ「B♭」音でも、E線の6フレットとA線の1フレットを弾くのではその響き方やフィーリングが大きく異なるように、押さえるポジションやピッキングのさじ加減によって、弾き手によって様々な"サウンド"の表現方法があり、弦楽器ならではの魅力の一つとなっています。それが音程の境界線がないフレットレスモデルともなれば、そこから生み出されるサウンドの可能性は計り知れません。 私自信、特にフレットレスベースにおける演奏の表現方法や楽器のデザインにおいては、あらゆる楽器の中で最も個性的で自由度が高く、ア-ティストや楽器製作家にとっては、まだまだ未知数の可能性を秘めた大変興味深い分野であると感じます。
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今月のコレクションは、アーティストの期待感と想像力をかきたてるシンプルなデザインの中に、豊かな表現力と味わい深いサウンドを備えた、不思議な魅力を放つフレットレスモデルをご紹介いたします。
Veillette Guitarsの工房でジョー・ヴィエレッテ氏とともに楽器製作を行ってきたルシアー、Martin Keith(マーティン・キース)が自身の名を冠し新たに立ち上げたブランド"Martin Keith Guitars"のフレットレスモデル"Sylph"は、小振りで軽量なウォルナット製のボディに、一般的なロングスケールよりも1インチ(=2.54センチ)短い33インチ・スケールを採用することで、ボディ材や指板材の硬さからくる適度な音の芯と反応の良さはそのままに、程よい弦のたわみによって豊かな倍音が引き出され、「硬さと柔らかさ」という一見相反する互いの特徴を活かし、弾き心地の良い絶妙なテンションと、豊かな表情の中にも繊細さと力強さ、ソリッドな太さを併せ持った、素朴で味わい深いフレットレスサウンドに仕上げています。
12フレットからの実寸で60sJB同様の位置にマウントされたリア・ピックアップは、単体で少しトーンを絞り、ピックアップの真上あたりで弾くと、もはやこれだけでも十分と感じさせるほどの心地よいトーンが得られ、逆にフロント単体にしてネックの付け根あたりで優しく弦を弾ませれば、丸みのあるトーンの中に、ラウンド弦のかすれたアタック音が叙情的ともいえる響きを添え、ウッディでふくよかなサウンドを聴かせてくれます。また、パッシヴ・サーキットながらEQの必要性を全く感じさせないどころか、むしろパッシヴであることの魅力を再認識させてくれる、そんな4弦フレットレスモデルです。
![]() Text by Kenji Okazaki, Bass Fitter / Bass Collection Shibuya |