ヘヴィ&ラウドなサウンドを叩き出す100Wのヘッドと堅牢なキャビネット、、、というイメージの強いENGLですが、15W~40Wの様な小型アンプやラックサイズのプリアンプなどもリリースしています。今回はその中でも1Uラックサイズの真空管プリアンプE530を特集したいと思います。
「プリアンプとして」、「オーバードライブ/ディストーションとして」、「小型ヘッドとして」、「レコーディング・ツールとして」などなど、E530で出来る事や他の機器との接続方法を複数回に分けて解説して行きます。
いままで「ラック機器って使うのが難しそう」とか、ENGLのサウンドが欲しいけど「ヘッドを持ち歩くのはチョット、、、」、そもそも「プリアンプって何?」といって敬遠していた方も是非ご一読を!
<<①~③の記事はコチラ
今回からはENGLの単体プリアンプ「E530」に焦点を当てて行きます。
まずは「E530」の主な特徴から見ていきましょう。
(1)真空管12AX7=ECC83を2本使用
(2)独立EQの2チャンネル×2段階ゲインの合計4段ゲインステージ
(3)クリーンチャンネル用のブライト・スイッチ
(4)リードチャンネル用のコンツァー・スイッチ
(5)フット・スイッチ/ラッチ・スイッチ用端子
(6)インストゥルメント出力、プリ・エフェクト・ループ
(7)通常ライン出力+周波数補正ライン出力
(8)ヘッドフォン端子
(9)1.5Wのパワーアンプ出力×2
簡単にまとめると、「E530」は真空管を使用したクリーン~ハイゲインまで対応したライブ、スタジオ、自宅練習、レコーディングまで対応出来るプリアンプです。
さらに小型パワーアンプを内蔵しているので、“直接スピーカーに接続”すれば自宅用としては十分な音量が出せる「小型アンプヘッド」になります。
これらの特徴の中で、今回は基本的な(1)~(5)について解説して行きたいと思います。
まず、「E530」は真空管を採用したプリアンプです。大型アンプヘッドと同様に、真空管を“高電圧駆動”させることで生み出される、ENGL印のハイゲインな歪みも健在です!
クリーンとリードの2つのチャンネルは、それぞれゲインの違いだけではなく“独立したEQ”セクションになっています。特にリードチャンネルは歪みの肝となる中域に“ハイミッド”と“ローミッド”の2つのコントロールを備えており、細かく歪みの音色を調節出来るようになっています。
さらに、クリーンチャンネルには高域を強調する「ブライト・スイッチ」、リードチャンネルには中域を強調する「コンツァー・スイッチ」と、それぞれのキャラクターを明確にする為の機能があることで、よりキラキラとした透明感あるクリーンや、粘りと押しの強いリードサウンドを生み出します。
またチャンネル切替えに加えて、両チャンネルに機能するゲイン・スイッチで真空管の増幅段を増やすゲインブーストが可能になっており、クリーンチャンネルは「クリーン」から「クランチ」へ、リードチャンネルは「リード」から「ハイゲイン」へと変化します。
「E530」には2系統のステレオ・フットSW端子が装備されています。この端子にステレオ・ラッチ信号を出せる機器を接続する事で、チャンネル切り替えなどを外部からコントロールする事ができます。
例えばステレオ・ラッチ信号を出力できるENGL「Z-4」フットSWを接続した場合は、「Z-4」の右のスイッチは「ゲインLo/Hiの切替」、左のスイッチは「チャンネルの切替」を行う事が出来ます。
もう1系統のフットSW端子に「Z-4」を接続した場合は、右のスイッチはリードチャンネルにのみ機能する「コンツァーのON/OFF」、左のスイッチは少し特殊な「デフィート」という機能のON/OFFを行う事が出来ます。
「デフィート」機能とは、「E530」のフロントパネルの機能を無効化してバイパスする機能です。この機能は複数のプリアンプを使い分ける場合などに使用します。より複雑なシステムを組む時に便利な機能ですが、今回は説明を省略します。
次回はインストゥルメント出力、プリ・エフェクト・ループなどについて解説したいと思います。
さて今回はインストゥルメント出力、プリアンプのエフェクト・ループを説明したいと思いますが、先に「E530」の信号の流れと、背面にある入出力端子を見ていきましょう。
※前回はプリ・エフェクト・ループと表記しましたが、「エフェクト・ループの手前」と言うように捉えられるので、「プリアンプ内の・エフェクト・ループ」と今回から変更します。
まずE530は2つのセクションから構成されています。1つは真空管プリアンプ、2つ目はその真空管プリアンプをより便利に活用する為のセクションです。
信号の流れは、前面にあるインプット、もしくは背面にある補助用インプット=AUXILIARY INPUTからE530に信号が入ります。その後、真空管による増幅やトーン回路を経由して「FX LOOP SEND」から出力されます。ここまでが真空管プリアンプの機能になります。
この「FX LOOP SEND」から直接パワーアンプなどに接続する事も可能ですが、接続する機器によっては「下準備が不十分」な場合があります。というのも、
③で解説したようにラインレベルに様々な規格がある為です。
次は便利に活用する為のセクションとなります。このセクションを使うことで様々な機器に合わせた追加の下準備を行う事や、ヘッドフォーン端子を使える用になります。
「FX LOOP RETURN」から始まるこのセクションを理解する為には、リターン端子をインプット、ラインアウトをアウトプットとしたプリアンプとは別の機器だと考えると解りやすくなります。
リターンから入力された信号はブースト回路に入ります。ブースト量は背面のLINE LEVELつまみで0~15dbの間で調節が可能です。その後ラインアウト用の端子とヘッドフォン用の小型パワーアンプへ信号が送られます。
また「E530」には通常のラインアウトの他に「“FREQ. COMP.” LINE OUTPUT」というライン出力端子があり、この端子からは内蔵された“4×12キャビネット・シミュレーター”を通したライン信号が出力されます。この端子を使うことで、ライン録音時にマイク録音をしたかの様な効果を得る事が出来ます。
この2系統のラインアウトは同時に使用する事が出来るので、通常のラインアウトをパワーアンプとスピーカーに接続してマイク録音、「“FREQ.COMP.” LINE OUTPUT」を使用してのライン録音、といった事を同時にする事が出来ます。
さて、ここから冒頭のインストゥルメント出力、プリアンプ内のエフェクト・ループの説明になります。
E530にはラインアウトよりも手前に「プリアンプ内のエフェクト・ループ」があり、「センド」用の端子には「インストゥルメント出力」と記載があります。この「インストゥルメント出力」から出力されるのは「ライン・レベル」では無く“大きめ”の「インストゥルメント・レベル」の信号です。
※デフィート機能を使用した場合はギターの出力程度になります。
「インストゥルメント出力」のイメージとしては出力の大きなオーバードライブやブースターを通した後の信号という感じです。
プリアンプを通っているのだから「ライン・レベル」なんじゃないの?と思われるかも知れませんが、こまかい理由は取り合えず置いておくとして、E530の「センド」からは“大きめ”の「インストゥルメント・レベル」の信号が出力されているんだなと何となく理解しておけば大丈夫です。
この「センド」から出ている「インストゥルメント・レベル」の信号をE530の「リターン」に入れる事で「ラインレベル」に変換する事が出来ます。
ちょっと解りづらいかと思いますので、次回はE530とエフェクターの接続例を紹介しながら説明していきたいと思います。