開発者インタビュー/Roland V-Accordion FR-4x
鍵盤堂(以下鍵):今日は浜松よりわざわざお越し頂きありがとうございます。早速ですが、FR-4xを開発するにあたって最も重視したことは何でしょうか?
Roland松本さん(以下R):ズバリ扱い易さ、弾き易さです。例えばFR-3xでは、音色の切り替え方法や、7セグメントLED画面での操作が難しいというご指摘をいただくことがありました。今回、文字情報が表示できるディスプレイを採用や、FR-8x同様すべてのパートボタンを右手側レジスター・ボタンの上に整列配置させるなど、ハードウェアの機能向上を図りつつ、ソフトウェア側も使用頻度の高い機能やリアルタイム性の高い機能へのアクセスの行いやすいようユーザー・インターフェースを再構築したことにより、非常に扱いやすくなったかと思います。
R:センサーや鍵盤等のハードウェア面は踏襲していますが、音源やベローズのセンシング技術に調整を加え、より演奏性を向上するようにブラッシュアップしました。今回は主に再生系が大幅に向上しており、それが感覚的な面で影響しているのではないでしょうか。
鍵:再生系というと、具体的には?
R:最上位モデルであるFR-8xのサウンドに、迫力という面で近づけることを重視しました。FR-3xと同じ中型サイズの筐体ですから、内部の空間に余裕が無いため、スピーカーの搭載位置やキャビネットの容量の確保等は試行錯誤でした。基板に穴を開けたりもしましたからね(笑)。出音の改善は、開発中最も苦労しこだわったポイントですので、評価していただけたことは本当に嬉しいです。中でも重要なポイントは、ツィーターを搭載したことです。
鍵:FR-3xに比べて、高域の抜けが格段に良くなっているのはツィーターの恩恵ですね。
R:はい。更に、右手側/左手側それぞれに4バンドのスピーカーEQも搭載しています。工場出荷の時点で、搭載スピーカーの特性に最適化してはいますが、音楽のジャンルや奏法、演奏者の好みに応じてこの部分でも調整する余地を残しています。
鍵:オーディオ的な音質面での向上、ということでしょうか。でも、ベローズの動きへの追従性の良さはそれだけではないですよね。
R:はい。加えてベローズ(蛇腹)を動かす強さを音源に反映させる、ベローズ・カーブも追い込んでいます。また、この要素は演奏感に直結する部分なので、簡単に設定画面を呼び出して(Shift 7)、好みの反応に調節することができます。
鍵:なるほど。では、音源部分についてお伺いしたいのですが。
R:音源はFR-8xを継承したPBM音源を搭載しています。アコーディオン音色に関しては、以前よりVアコーディオン・プレイヤーとして有名なフランスのルドヴィック・ベイヤー氏をはじめ、北米や欧州など、世界各国のプレイヤーからの意見やデータを反映して開発されています。またFR-3xのプレミアム特典として配布された「ダラッペ」のサンプル波形も標準で搭載されているのもポイントですね。
鍵:オーケストラ音色については如何でしょうか。
R:オーケストラ音色については、電子楽器ブランドであるローランドの資産である様々な音色を、バランス良く抽出しています。大半はFR-8xを継承していますが、エスニック系の波形など、今回新たに採用されたものもありますよ。あと、 FR-3xでは出来なかった左手側のレイヤーも可能になっています。左手レジスターボタンの同時押し、これは(以前プロトタイプをチェックした際の)鍵盤堂さんのリクエストを反映した結果です。
鍵:ありがとうございます!エフェクトはリバーブ・コーラスのみとなっていますね。
鍵:ロータリースピーカーの切替や、その他様々なエフェクトやパラメーターの切替は、基本的にはパネル上のボタンで操作する形ですよね。例えばFR-8xのチン・レジスター(顎で押すレジスタースイッチ)やマスタースイッチ(右手の手のひらで押すスイッチ)に相当するような、両手が演奏で塞がっている状態でもコントロールする方法はあるのでしょうか。
R:FC-300(MIDIフットコントローラー)をMIDI接続することで、そうした各種コントロールが可能です。またバンドで使用する場合、右手しか演奏しない場合も多いのではないでしょうか?そのような方には、FC-300を使わなくても、空いている左手で左ボタン鍵盤の一部に様々な機能を割り当ててお使いしていただくことも可能です。
鍵:なるほど。そして、MIDI端子の横には待望の「INPUT」端子が(ステレオミニジャック)!
R:いよいよVアコーディオンにも付きました!私自身、スマホ等の外部プレイヤーで再生した音源に合わせて練習することが多いのですが、今までは外部ミキサーを使用するか、USBメモリーに音源をコピーして接続するか、禁断のヘッドフォン&イヤフォン二重掛け(笑)をやるか、という状況だったので、これは便利かと思います。
鍵:単純に本体のサウンドにミックスされて出力される訳ですね。インプットボリューム等の設定はあるのでしょうか?
R:ボリュームは固定なので、再生側の機器でコントロールして頂く必要があります。一般的なプレイヤーのヘッドフォン端子からの信号に最適化されているので、困ることは無いかと思います。あと、ヘッドフォンといえば、通常は本体のヘッドフォン端子にヘッドフォンを接続すると、スピーカーからの音がミュートされるのですが、FR-4xはヘッドフォン端子を接続した状態でも、本体のスピーカーから音が出る状態が選択出来るようになっています。
鍵:演奏中にイヤモニっぽく使える訳ですね!
R:はい。モニター状況の良くない会場での演奏等で便利ですよ。
鍵:良く考えられていますね・・・!ではいよいよFR-4xの最大のトピックと言える(?)、エディターについてお伺いします。
R:FR-4xは、FR-8xに匹敵する様々なパラメーターをじっくり設定できるエディターソフトウェアが用意されています。Mac/Win対応で、発売に併せてダウンロード提供される予定です。
鍵:接続はUSBですね。
R:はい。FR-3xから進化した点として、USBメモリー端子に加え、 USB COMPUTER端子が装備されており、ここからPCに接続します。エディターのメイン画面がこちらです。ここから右手、左手それぞれのアコーディオン・セットのレジスターの設定、リード間のミュゼット・デチューン(トレモロの深さ)等、現実のアコーディオンでは困難なカスタマイズが容易に行えます。
鍵:エディット結果は随時反映されるのでしょうか。
R:ええ、シンクボタン等を押す必要は無く、随時本体のパラメーターに反映されるので、音を聴きながらじっくりエディットできます。このとき、本体のベロシティカーブを「FIXED(固定)」に設定しておけば、本体を置いたまま作業ができますね。
R:ええ、こちらの画面で一通りのパラメーターが変更できます。オルガンは勿論、ドローバーの抜き差しもできますよ!
鍵:iOSやアンドロイド用のエディターは・・・?
R:残念ながら現時点では用意されておりません。
鍵:判りました。では、FR-4xはどのようなユーザー層を想定していますか?
R: V-Accordion はアコーディオンの新しい楽しみ方、可能性を感じて頂ける製品かと思います。アコースティック・アコーディオン奏者の方が新しいことにチャレンジするための楽器としてもお勧めです。FR-8xほど大型の製品だと重すぎるという方にはFR-4xが最適なモデルかと思います。私もそうでしたが、初めてVアコーディオンを弾かれる方はべローイングなど、アコースティックと異なる挙動に少し違和感があるかもしれません。そんな時は、まずベローズ調整器でベローズの抵抗感を好みの重さに調整して頂いたうえで、ベローズ・カーブの設定(Shift 7)を各種試してみてください。これだけで、どんなスタイルのプレイヤーの方にとっても、きっと好みにあった「気持ち良い」設定が見つかるはずです。
様々な楽器の音が出せる、という「判り易い」デジタル・アコーディオンならではの活用法は皆様もイメージし易いかと思います。更に、様々なタイプのアコーディオンのサウンドを弾き比べたり、エディターで様々な設定を試してみたりすることで、アコーディオンという楽器をより深く理解し、自身の演奏にフィードバックできるのではないでしょうか。
R:まだまだ技術的に難しい部分もありますが、「ダイナミック・ベローズ・ビヘイビアー」を普及価格帯のモデルにも搭載したい、という願望はあります。勿論、アコーディオンのより精度の高いモデリング、リアリティを追求していくことも一つの使命として、継続して取り組んでいきます。同時に、より新しいこと、電子楽器としての可能性の探求も忘れてはいけません。Vアコーディオンの進化はまだまだ続きますよ!
鍵:期待しています!松本さん、今日はありがとうございました!!