Leilani(レイラニ)というウクレレブランドがあります。1990年代にハレ・レイラニ氏が、巨匠ロ・プリンジの治具とか工具を使って造り始めたと言われるメーカーで、ウクレレ好きで知らない人はモグリだ、と言われる程、愛されているブランドです。レイラニは複雑な歴史の変遷を辿っておりまして、創始者のハレ・レイラニさんが亡くなり、彼の残した材や作り掛かっていたボディでT's Guitar→ Seilenさんによって製品供給されていましたが、最近はやや意匠を変え、HeadwayでおなじみのDiviser社さんが製造されていらっしゃいます。
それにしても、初代のレイラニウクレレは格別に良い音でした。とんでもなく鳴らない個体が多いのですが、深くて暖かくて甘い、すごく良い音なんです。プロの方の多くはウクレレにピックアップをマウントしてしまうので、本体自身の音量や、生音で遠くまで届く力、優しいタッチでハッキリしっかり音が出てくれる好反応性よりも、音程感や音色のバランスや演奏性を尊重する方が多いです。初代レイラニウクレレは自社ブランドのピックアップを組み込んでいた事情もあって、鳴り過ぎない落ち着いた点が、有利に働く場合もあったわけです。
ところで、「レイラニ」という単語はハワイの女性の名前に使われるもので、ラニは「天」「王族」など「尊く高い」印象を与える言葉のようです。「レイ」は首にかけるレイと同じですが、同時に「親愛なる者(子・親・恋人等)」という意味もあり、「レイラニ」は「天使の子」みたいなニュアンスを持つかなり可愛い名前です。でも、ハレ・レイラニさんははじめからガッツリおじさまでした。生前のハレ・レイラニ氏と親しかった人から逸話をいくつか伺いましたが、なかなかに味のある人だったようです。
楽器は、同じ材・同じ設計図で造っても、製作者や工房によって音が全然違ってきます。レイラニの「あの音」の源泉は、親愛なるハレ・レイラニ氏とともに尊くて高い場所へ還っていってしまいました。届かなくなったからこそ、私たちはその郷愁を追い続けてしまうのでしょう。