マーティンのギターが好きです。
他のギターには無い独特のハーモニー感と残響があり、私の耳にとても心地よく響きます。特にOMが好きです。000の薄いシェイプとドレッドノートのロングスケールが一体化した、まさしく「良いとこ取り」なギターです。かつてマーティンファクトリー施設内にあるミュージアムで1930年に11本だけ製造されたOM-45デラックスの本物を弾かせてもらったことがあるのですが、4・5・6弦は教会の鐘のような深い音が、3・2・1弦はガラスが優しく砕けるような音がしました。
その時私が弾いていた姿を動画に撮ってくれた日本の他のお店の偉い方が、気づいたらひっそりその動画をご自身のお店のツイッターの固定ツイートにされていたのは懐かしい思い出です。ひとこと言ってって。
さてそのマーティンですが、もともとはドイツの流れで、初代クリスチャン・F・マーティンはドイツに生まれ、ウィーンで楽器製作を習い、生まれ故郷であるドイツのマルクノイキルヘンに戻ってお店を開くも、19世紀初頭のヴァイオリンギルドの紛争に巻き込まれ、疲弊のすえ1833年にニューヨークに移転したという経歴があります。調べたところ、マイクノイキルヘンはチェコとの国境の近くで、1985年以降国際楽器(演奏)コンクールを開催するほど音楽が深く根付いた町のようです。
そこからニューヨークに持ち込まれた音色が、今やアメリカを代表するサウンドとなっているわけです。ちなみに、アメリカでは6人にひとりがドイツ系移民といわれており、現在アメリカの人口構成上ドイツ系移民の系譜が最大の割合をしめているそうなので、脈々と受け継がれる「懐かしさ」をくすぐる部分が今もマーティンの音色や佇まいにはあるのでしょう。
私がヴィンテージのOM-45デラックスを弾かせてもらった日に、現CEOクリス・マーティンIV世と、出張に来たみんなで食事会があり、その席で彼と少し話をさせてもらいましたが、クリス氏が欧系らしいくりくりの金髪とそばかすを散らしたシャイな少年のような笑顔で「これからはSNSの時代さ!一緒に写真を撮ろう!インスタグラムに上げてくれないか」と言ってくれたので、そこから急遽撮影会の列ができました。ギャップえぐいな!と思いつつ、伝統と革新の良いとこ取りと進化に全精魂を傾けるクリスとマーティン社に改めて敬意を抱いたのでした。