フラメンコが弾けません。
結構練習しましたが、あの独特の「感じ」が出ません。音色、リズム、スピード全部無理です。10年ほど前に、スペイン人の友達にちょっとラスゲアード(右手の爪で掻き鳴らす奏法)を習ってみたりしましたが断然無理です。でも彼(スペインの友達)のそれは炎のように激しくて格好良いのです。弾きたいのです。私は上達の実感が無いまま、練習に明け暮れました。
そんな悶々としたある日、当時私が働いていた店舗に、ある有名なフラメンコギタリストがいらっしゃいました。「エレガットをいくつか弾かせてください」と仰るので、何気なくホセ・ラミレスやコンデ・エルマノスやカンプスなど何本かスペイン製のエレガットをお渡ししました。
数分後。スパパーン!!というとんでもない音が私の耳を貫きました。海外の射撃場でベレッタを撃った時に聞いた音とほぼ同じです。それがそのプロのギタリストの方の手元から鋭く響いたのです。グーからパーの形に手を動かして爪を弦に当てただけで人間そんな音が出せるのか、と私は三度見しました。その後その方はアンプを弄ったり、ちょっとした小粋なフレーズを弾きながら、何事も無かったかのようにピックアップの反応を確かめて帰っていきました。
ヤバい。私もあの音出したい。その為にちゃんとフラメンコを学ぼう。そう思った私はまず「フラメンコってどういう意味?」という所から始めました。実際これは諸説あって、スペイン語で「フランドル地方の」とか、スラングで「派手な」「伊達な」、もしくはジプシーを指す「逃亡の農民(フェラー・メング)」という言葉から来た等々。その中で私が気に入ったのは、ラテン語で「火炎」を意味する「flamma」から来た説です。そうそう。私がフラメンコに抱いているイメージはまさしく火炎です。炎のようなラスゲアード、銃火器の炸裂音、揺れる火影。これこれ!
しかし、しっくりくる語源を得られた私は何となく満足してしまい、それ以降フラメンコはほとんど聴くだけに。例のプロの方はその後、試奏の際に気に入ったらしいギターをどこかで手に入れて愛機とされているようです。
そうです。このギターが、その時ベレッタの音がしたものと同機種なのです。(同個体ではありません。)燃え尽きた私の夢の代わりに、どなたかがこのプリメーラで火を噴くような演奏をしてくださるのを、ただ待ち焦がれております。