「日本には影を表す文字が4種類あるんです」
ある日、北海道のウクレレルシアーのPo(ポー)さんが新作のウクレレを2本紹介してくれました。その時その新しいウクレレたちのコンセプトを訪ねた私に、Poさんが冒頭の言葉を放ちました。「話が急こう配!」と思いましたが、まずはふむふむと聞き役に徹することにします。その4つの文字とは「影」「陰」「翳」「蔭」とのこと。
ちなみに、「影」とは物体に光が当たったときに、光が遮られて伸びる影法師のこと。「陰」とは物体に光が当たった時に、その物体自体の光の当たり方が少ない部分にできるグラデーション状の暗い部分。
ここまではPoさんの説明です。ここから先は私の解釈ですが「蔭」は木蔭とかお蔭様というような、暗いところに光が漏れている状態。「翳」は雲に覆われるような「場の輝度が減っていくこと」と思われます。
で、Poさんはその4つのカゲをコンセプトに「Beyond the Shadow」というシリーズでウクレレを作っているとおっしゃいました。カゲの彼方に音楽がある、というのです。す、すごい。
その新作のうち1本はサンバーストカラーのイエローシダートップ。もう1本はベアクロウ・スプルーストップです。サンバーストの方が「陰」でベアクロウの方が「影」とのこと。なるほどサンバーストの黒い部分が陰影のコントラストをしっかり表しています。もう1本の方も、濃い目のシトカを彩るベアクロウに影の雰囲気が出ております。そしてPoさんはこういう意味のことをおっしゃいました。
「カゲの中には必ず光があるんです。カゲが伸びて行くと薄くなって、ついには光になります。日本中の色んなお客様の手元に届くことによってカゲが光になっていくことが、このコンセプトにとって大事なんです」
深みッ!
かつてここまで深い意味を与えられたウクレレが日本にあったでしょうか。音の深みだけではなく、意味の深み。もうこれは「文学」です。私の中で「日本のエドガー・アラン・ポー」の称号は江戸川乱歩からPoさんに移りました。前回は「屏風」と「詩」をウクレレで具現化していましたが、今回はカゲという現象の物質化です。いやあ、毎回Poさんのウクレレのミステリアスさは凄まじい、、あとの2本「翳」「蔭」も、推理小説のページを捲るように楽しみに待っています。